2016年東南アジアの旅【ラオス・ルアンパバーン編 ミスターココナッツの巻】
2日目の夕方、よりよいサンセットビューポイントを探して川沿いをのんびり歩いていると、ルアンパバーンのシンボルでもある寺院ワットシェーントーンの前まで来てしまった。寺院から道を挟んだ向かいには川辺に下りられる階段があり、下った先は船着場になっている。
薄暗くなってきたし、ワットシェーントーンより先の道はあまり人気がなさそうなので、これより戻るべきかどうか考えていると、「ボートで1時間のツアーに行かない?対岸の寺に行くよ」と話しかけてきた青年がいた。
「いや、暗くなってきたしもうすぐ帰るからいいよ」と断り、半分以上沈んだ最後の夕日を見るために船着場の方に向かって階段を下りた。
階段に座って夕日とメコン川を眺めていると、青年も階段を下りてきて私の横に座った。手にはビールを持っている。さっきはよく見ていなかったけど、丸顔でぷっくりした人なつこそうな青年だった。
「ビールを買ってくれれば運賃はタダにする。僕が運転するから、一緒にビールを飲もう」となおも誘ってくる。
よほどのことがない限り飲みの誘いは断わらないのが信条の私は、《ビール》という単語を聞いた瞬間条件反射的に「よし、行くかー!」とうっかり答えそうになったが、あわてて思いとどまる。
それでもしばらくしつこく誘ってきた彼も、相手にしないでいたらようやく諦めたみたいだった。
しばらく黙って川を眺めた後、「飲みなよ」と飲みかけのビアラオを差し出してきた。
座っていても汗が流れてくるくらい暑くて、喉が渇いていたので遠慮なくいただく。冷たいビールが染みわたる。
飲みながら、これは彼の父親の船で、彼はその運転手をしているのだということ、ルアンパバーンで生まれ育ってまだ一度もラオスを出たことがないこと、28歳で独身だということ、今日予約していた日本人の若者たちにすっぽかしを食らったこと、泳ぎには自信があること、学校も習うけど観光客相手に練習をしてきたから英語が話せるのだということ、なんかをポツポツと話した。
「メコンの夕暮れってきれいだね。君も好き?」と聞くと、「うん。毎日ここで夕陽を見るよ」と言った。
いいなあ、贅沢だなあ。
「僕の名前はカチ(KATHI)なんだけど、ココナッツっていう意味なんだ」
ひとときの楽しいおしゃべりをありがとう、ミスターココナッツ。